欲しいもの

2017年11月16日 妄想
手を伸ばせば触れられる距離にあった。
それに触った感覚は確かに覚えているのに、それはもうどこにもない。
もう二度と会えない。
自分の中に残ったその記憶だけが、何度も繰り返される。
焼き付けられたその回路だけが、あの肌触りを、触れたときの喜びを、再現するために血を流す。
君以外は何もいらないのに
君といるためには他のすべてがいる
バッテリーが劣化してしまった私は、接触面が大きくないと充電されない。

塩素の匂いの君の肩越しに、冷たい外の空気も一緒に吸い込む。
冷えた耳に暖かな耳をつなげて、せめて君に温度を伝えたい。

言葉すら通じないのに、気持ちなんて。
だからせめて温度だけでも。

雪の朝

2016年2月2日 妄想
竹林がなびいて散り落ちる雪が風を描く。
電線に切り取られた雲の足が速くて、太陽が現れては消える。
突き刺さる光が、頬に当たって溶ける。
振動する線路から、振り落とされそうな力で引き剥がされていく景色。

私はただ暖かな布団の中で、忘れてきてしまった何かを思っている。

つれづれ

2016年1月31日 趣味
「例えば川があるじゃない」「川」
「だーっと流れる川ね、大雨の後の。その川の途中に石が置いてあるわけ。大量の水が流れる中、その石に当たって飛び散る水があるよね」
「まあ想像はできる」
「その飛び散る水のうち何個かの水滴が、そうだねこれくらいの高さで浮いてるコップに入るとしよう」
水平にした手で胸のあたりを叩く。「あ、石の高さはこんくらいね」そう言いながらしゃがんで膝下の高さをなでる。
「絶対その描写は必要ないと思うけど、それで」
「要するにその水滴が、君の言うところの見るっていう行為なわけよ」「はあ?」
「あー違うな。そのコップが見るという行為になるな、これだと」
「で、コップもってうろうろするのが意識ってか」
ソファに寝転がったピースが割り込んできた。
「そっか、違うね。コップまではまだ視神経だ。そのコップに集められたわずかな水滴を、指先だけでなめるのが見るってことだ」
「ものすごく分かりにくいけど、言いたいことは分からないでもない」
「で、そんな水滴ぽっちをなめて君はこう言ったわけよ」
見えないコップを持った手を、リャンの顔へ近づけてミドリは言った。
「俺はこの川をすべて飲み干した」
断崖絶壁に頭からのめりこんで、真っ黒な空間に触れる。
鼻先に突き付けられ、顔面を覆い尽くし、眼球を舐めそうなほど近くにある黒い闇。

全てが凍り付く世界。

何もない。これまでもこれからも、何もなかったことになる世界。
それに一瞬しか触れられず、戻ってきた時の空気の濃さにむせかえる思い。
四方から降り注ぐ色彩の棘に、終わることのない痛みを覚えて歓喜する。
優しさは目に見えない貨幣のようなものだ。

そしてそれは信頼によって取引される。実際の貨幣と同じように。
幼い子供に向けられる優しさは、未来への盛大な投資としてたっぷり支払われる。
けれどその投資の回収は、投資を受けた子供自身から受け取る形にはなっていない。

優しさを払うと貰えるのは、受け取りの証としての感謝の言葉のみ。
払われた優しさ自体は、別の人間への支払いに使われる。
循環させること。それだけが根拠のない信頼を支えている。

そして信頼だけで成り立っている貨幣を駆逐する存在。
人の優しさを食いつぶすだけの不良債権。
そこへ優しさを支払い続けることは、優しさの循環世界を崩壊させる悪行に他ならない。
優しさは無限だ、けれどその無限を支えるのは信頼だ。

信頼を崩されたとき、優しさは消滅する。

それは存在しない

2013年12月25日 妄想
貴方の悲しみは、貴方だけのものだ。
誰もそれを救えない。
誰もそれを共感できない。

誰かの悲しみを、本当に同じに感じることはできない。

貴方の悲しみが、貴方だけのものであるのと同じように
誰かの悲しみは、その誰かだけのものだ。

比べられるはずもない。
同じものなんて何一つ存在しない。
比較対象のことを知りもしないのに、比べられると思うなんて馬鹿げてる。

悲しいなら悲しめ。泣きたいなら泣け。
誰も貴方を救わない。
貴方が誰も救えないのと等しく。

容量の問題

2011年4月7日 雑記
溢れかえる情報に飲み込まれないよう、目につく片っ端から付箋を貼って
背中のかごに放り込んでいく。

ハリネズミみたいに体中につけられた付箋を揺らしながら
同じようにフサフサになった君と目を合わせて笑う。

君が私につけた「気まぐれ」の付箋に、怒ってみせたり
私が君につけた「うそつき」の付箋に、首を振ってみせたり

誰かが私につけた「いい加減」の付箋に、「おおらか」を付け足したり
誰かが君につけた「やる気なし」の付箋に、「慎重派」を付け足したり

何もかも全部を理解しようとする、おこがましさは捨てて
自分にできることを少しずつでいいから、理解していきたい。

ただそれが、むしって増やすだけの不毛な行為だとしても
いつか君の肌に直接触れることを願って笑っていたい。

夢のあと

2011年1月13日 妄想
のどに絡みつく潮の香りと、裸足では歩けない砂浜。
靴先を濡らして、一瞬だけ見える暗い色の生々しさに愕然とする。

手の届く範囲でしか、何かを認識できない。

振り返ってみれば、遥か彼方にベランダが見える。
さっきまであんなに心地よかった空間が、こんなにも空々しい。

記憶の話

2010年7月14日 雑記
雨の匂いだ。

風を受けて膨らむカーテンの中で、湿度の高い空気を肺に満たしていく。
暴れまわる布の端を押さえ、合わせた両手の隙間から海を見る。
ベランダの手すり越しに見える、鈍い色をした空。
その重さに抵抗して砕け散る波の白さに、胸の奥から湧き上がる感情を止められない。

もうすぐ嵐がやってくる。

夢の話

2010年7月14日 雑記
なだらかな丘陵を柔らかな風が登ってくる。
流れる草のざわめきだけが、足元を通り過ぎる。
かすむほど遠くにある海の上へ、吸い込まれるように雲が消えていく。

夏が来た。

2010年6月25日 妄想
誰かが眠っている時間に、起きている。
誰かが起きている時間に、眠っている。

夜はただの位置情報にすぎない。
太陽のある向こう側にいるか、こちら側にいるか。

厚い雲の向こうに月があること。
その月が漂う空間があること。
光る星の上に、目を閉じれば立てること。

そうやって
ちっぽけな世界のちっぽけな存在であることを確認して、安心する。

あいまいな定義の言葉に
主観でしか語ることのできない言葉に
振り回されるダンスのようなもの。

私と貴方が、ある事象についての意見を違えても
私たちが本当に同じものについて語っているかは証明できない。

言い出したらきりがない。

そういって無視される様々な屍骸の上にしか成り立たない議論。
そういうの嫌いじゃない。

足を止めたら全部が溢れてきそうで止められない。
ずっとこの道が続いていればいいのに。

顔に叩きつけられる雨が、涙と鼻水に混じって吹き飛んでいく。
通り過ぎる車のヘッドライトすら、殴り倒したい。

ぼやけた視界と淡い光に縁取られた海沿いを歩いている。
ただ世界があんまりにも綺麗で、怒りがどうしても消えてくれない。

一番殴り倒したいのは自分自身なのに、体に触れたら止まってしまいそうで。

エネルギー不足

2009年6月23日 妄想
自分のためより、誰かのためと思ったほうがやる気が出るとき。
考えることに疲れているんだなぁと思う。
嘘は言っていないけれど
本当のことも言っていない

ただそれだけのこと。

それを誠実と呼ぶのなら、もうそれでいいや。

境い目

2009年3月2日 妄想
切り取られた髪の束を、集めてゴミ箱に捨てる。
鏡台に散らばった微かな髪も、掃除機で一掃してしまう。
さっきまで私の一部だったものが、こうも簡単に別のものになる。

言ってしまった言葉。
ほんの一瞬の隙を突いて出たそれは、もう君の中で何かに変化していく。
さっきまで私に属していたものが、制御できない何かになる。

それは確かに私のものなのに、血肉を通わせるのは君しかいない。
…はよう
おはよう

なに、寝るの
うん、ねむい

ねむいの
だって、朝4時に目がさめた

最近よく、眠っている君の顔をまじまじと見る。
今とても疲れていて、まる一日寝ていないことも多くて、脳みそが働いていない。
だから、とても静かな気持ちで見ている。

穏やかに、緩やかに、熱量死のように。
変化することのない気持ちを、慣れと呼ぶのかな。

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