溺れている間は空気のことしか考えられない
空気を求めて開いた口から、苦い水が流れ込む
鼻腔へ飛び込む塩分と、虚しさだけで構成される怒り
それしか考えられないほどの苦しさも
乾いた地面に立った瞬間、忘れてしまう
昨日の私は既に死んでいて
今日の私はまだ生きている
明日の私との間には、越えられないほどの隔たりがあるのに
繋がっているなんて妄信はどこからくるんだろう
空気を求めて開いた口から、苦い水が流れ込む
鼻腔へ飛び込む塩分と、虚しさだけで構成される怒り
それしか考えられないほどの苦しさも
乾いた地面に立った瞬間、忘れてしまう
昨日の私は既に死んでいて
今日の私はまだ生きている
明日の私との間には、越えられないほどの隔たりがあるのに
繋がっているなんて妄信はどこからくるんだろう
熱に浮かされたヨナは、治療者たちの会話をおぼろに聞いていた。
「ここでは間に合わない」
「早くしなければ、足の毒が凶暴化し全身を襲い始める」
「しかし、切除による損壊は好まれていない」
やがて会話していた1人がヨナに声をかけた。
動けず目も見えない彼の耳元へ語りかける。
「お前の足は我々では治療できない。ある程度の進行は防げるが、それもただの時間稼ぎだ。お前は選択しなければならない。了承するなら指を1回、無理なら2回動かせ」
そう言って彼女はヨナの手に自らの手を重ねる。
かすかに動く指先。1回。それを確認すると彼女は続けた。
「引取り国のない傭兵のお前には、所属する傭兵団があるはずだ。そこで足の切除をするか判断するしかない。傭兵は傭兵団のもの、足の損壊はさすがに我らでは決断できない」
指先が動く。1回。ヨナは言葉を紡ごうと唇を動かすが、それはわずかに震えるだけだ。そして指を動かす、2回。
「分かっている。傭兵団との取引は秘密の場所で行われる。それを知られることは死に値する。よって我らもお前に命を預けよう」
指を動かす。かろうじて2回。その指の緩慢な動きを感じて、彼女は笑った。
「誰かの命が欲しいと思ったら、自分も命を懸けなければならない。それを奪うときでも救うときでも」
ヨナの周囲が慌ただしく動く。衣擦れの音と不快な匂いが、渦巻く風に混じる。
「今は先ほどの投薬で体が戦っているため口も利けぬが、しばらくすれば多少はましになる。だが待てない」
誰かがヨナの脇に肩を差し込み、抱え上げる。そして何か青臭い匂いの中に運ばれる。
「このまま港へ向かう。治療と運搬の2名のみ。そこから先はお前次第だ」
「ここでは間に合わない」
「早くしなければ、足の毒が凶暴化し全身を襲い始める」
「しかし、切除による損壊は好まれていない」
やがて会話していた1人がヨナに声をかけた。
動けず目も見えない彼の耳元へ語りかける。
「お前の足は我々では治療できない。ある程度の進行は防げるが、それもただの時間稼ぎだ。お前は選択しなければならない。了承するなら指を1回、無理なら2回動かせ」
そう言って彼女はヨナの手に自らの手を重ねる。
かすかに動く指先。1回。それを確認すると彼女は続けた。
「引取り国のない傭兵のお前には、所属する傭兵団があるはずだ。そこで足の切除をするか判断するしかない。傭兵は傭兵団のもの、足の損壊はさすがに我らでは決断できない」
指先が動く。1回。ヨナは言葉を紡ごうと唇を動かすが、それはわずかに震えるだけだ。そして指を動かす、2回。
「分かっている。傭兵団との取引は秘密の場所で行われる。それを知られることは死に値する。よって我らもお前に命を預けよう」
指を動かす。かろうじて2回。その指の緩慢な動きを感じて、彼女は笑った。
「誰かの命が欲しいと思ったら、自分も命を懸けなければならない。それを奪うときでも救うときでも」
ヨナの周囲が慌ただしく動く。衣擦れの音と不快な匂いが、渦巻く風に混じる。
「今は先ほどの投薬で体が戦っているため口も利けぬが、しばらくすれば多少はましになる。だが待てない」
誰かがヨナの脇に肩を差し込み、抱え上げる。そして何か青臭い匂いの中に運ばれる。
「このまま港へ向かう。治療と運搬の2名のみ。そこから先はお前次第だ」
君がそんな風に笑うから、僕も一緒に笑っていられる。
君がそんな風に泣くから、僕も一緒に泣けるんだ。
君がそんな風であるために、僕にできること。
臓腑を垂れ流し、溶け落ちる肉の中を這いずり回る。
決して君に触れないよう、引かれたラインに炙られ焦げる。
最後の呼吸ひとつまで僕は君の物。
最期の鼓動ひとつまで僕は君の物。
君がそんな風に泣くから、僕も一緒に泣けるんだ。
君がそんな風であるために、僕にできること。
臓腑を垂れ流し、溶け落ちる肉の中を這いずり回る。
決して君に触れないよう、引かれたラインに炙られ焦げる。
最後の呼吸ひとつまで僕は君の物。
最期の鼓動ひとつまで僕は君の物。
風が吹き始めたら立ち止まる。
質量を持った濃度の、新緑の傘に隠れてはじけ散る太陽の光を避ける。
肌に張り付いているのは吸収しきれなかった塩分だ。
蒸発する水分で粘度を増すそれの上を、滑るように渦を巻いて通り過ぎる風。
肺が熱い。耳元で心臓が鳴る。体中の穴から立ち上る気体に視界が曇る。
自分を置いて流れていく全てを信じている。
質量を持った濃度の、新緑の傘に隠れてはじけ散る太陽の光を避ける。
肌に張り付いているのは吸収しきれなかった塩分だ。
蒸発する水分で粘度を増すそれの上を、滑るように渦を巻いて通り過ぎる風。
肺が熱い。耳元で心臓が鳴る。体中の穴から立ち上る気体に視界が曇る。
自分を置いて流れていく全てを信じている。
焼け焦げた匂いが残っている。
高温で溶かされ、いびつに冷え固まった残骸。
歪んだ形のまま滑らかになった表面に、かつての熱は残っていない。
ここは何もなさぬ不毛の土地だ。
自壊する力を溢れさせ、何もかも巻き込んで崩壊した荒れ地だ。
けれど足下で割れたその欠片は、再び滅んでもかまわないと火花を散らす。
むき出しの肌を掻きむしるように、何も見えていない慟哭をまき散らす。
高温で溶かされ、いびつに冷え固まった残骸。
歪んだ形のまま滑らかになった表面に、かつての熱は残っていない。
ここは何もなさぬ不毛の土地だ。
自壊する力を溢れさせ、何もかも巻き込んで崩壊した荒れ地だ。
けれど足下で割れたその欠片は、再び滅んでもかまわないと火花を散らす。
むき出しの肌を掻きむしるように、何も見えていない慟哭をまき散らす。
誰かに何かを言われて、君の中のそれは消えてなくなるのかい
ならそれは君のものじゃない、吹けば飛ぶただの埃だ
誰かに何かを言われて、君の中のそれは形を変えるのかい
まあそれは君かもしれない、でもちょっと待って埃を払って
見えるだろう君に反射して干渉しあう、環境の色
うごめく表皮のやわらかさ生々しさ、気持ち悪いだろう
形を持たない温かな頭陀袋、それが君だよ
ならそれは君のものじゃない、吹けば飛ぶただの埃だ
誰かに何かを言われて、君の中のそれは形を変えるのかい
まあそれは君かもしれない、でもちょっと待って埃を払って
見えるだろう君に反射して干渉しあう、環境の色
うごめく表皮のやわらかさ生々しさ、気持ち悪いだろう
形を持たない温かな頭陀袋、それが君だよ
私の指は私に動かされている
私の足は私に動かされている
じゃあ私の心を動かす全てのものも、私なのかな
何かを考えて言葉にして、私は誰かを傷つけている
何かを考えた誰かの言葉に、私は傷つけられている
じゃあ傷つけあっているのは私自身なのかな
私の足は私に動かされている
じゃあ私の心を動かす全てのものも、私なのかな
何かを考えて言葉にして、私は誰かを傷つけている
何かを考えた誰かの言葉に、私は傷つけられている
じゃあ傷つけあっているのは私自身なのかな
排他原理あるいは引用
2018年10月10日 雑記単純でいることは簡単なことじゃない
慌ただしい日々の摩耗と軋轢に
色とりどりの修飾と解釈の違いに
混ざり合って泥まみれになった君を見失ったら思い出して
交じっても混ざれない、君だけの呼吸
慌ただしい日々の摩耗と軋轢に
色とりどりの修飾と解釈の違いに
混ざり合って泥まみれになった君を見失ったら思い出して
交じっても混ざれない、君だけの呼吸
くるくる回る磁石の針
2018年7月5日 恋愛無垢っていうのは、単に方向が定まってないってだけじゃない?
善悪ってのが、単にそれぞれが反対の方向を差してるだけってのと一緒でさ。
だからそうただ単に、この衣装はこれから君と同じ方向へ進みたいって気持ちの現れ。
善悪ってのが、単にそれぞれが反対の方向を差してるだけってのと一緒でさ。
だからそうただ単に、この衣装はこれから君と同じ方向へ進みたいって気持ちの現れ。
乾いた唇に最初の雨粒を受けて、胸の奥の水面に何かが灯る。
ため息のように消えたそれを求めて、顔を上げて歩いていく。
一瞬しか存在しないものに永遠を求めるなら、数をこなすしかない。
ため息のように消えたそれを求めて、顔を上げて歩いていく。
一瞬しか存在しないものに永遠を求めるなら、数をこなすしかない。
金の卵を産むガチョウ
2018年3月5日 妄想視線を合わせて、肌に触れて、笑いあって。
言葉を交わして、指を絡めて、鼻先を摺り寄せて。
何をしても境界でしか触れられない君を、時々ほんとうに引き裂きたくなる。
言葉を交わして、指を絡めて、鼻先を摺り寄せて。
何をしても境界でしか触れられない君を、時々ほんとうに引き裂きたくなる。
体毛を逆立てて、腹の底から空気を震わせても聞こえない。
飛び散るような電気信号に、全身の筋肉を熱くさせても聞こえない。
思考でもない、表情でもない、ましてや言葉でもない。
ただ聞こえないだけなんだ。
飛び散るような電気信号に、全身の筋肉を熱くさせても聞こえない。
思考でもない、表情でもない、ましてや言葉でもない。
ただ聞こえないだけなんだ。
知ってる?
きみが扉の鍵を開けるとき、とても複雑な音がする。
それがどうしても不思議で、息を止めて見つめてしまう。
暖かに漂っていた部屋中の気体が、電圧をかけられたように指向性を持ち始める。
浮かれ騒いでいた埃まで、そっとスカートを撫でつけるように床へ降りていく。
何もかもが君を待っている、何度目かわからない初めての瞬間。
きみが扉の鍵を開けるとき、とても複雑な音がする。
それがどうしても不思議で、息を止めて見つめてしまう。
暖かに漂っていた部屋中の気体が、電圧をかけられたように指向性を持ち始める。
浮かれ騒いでいた埃まで、そっとスカートを撫でつけるように床へ降りていく。
何もかもが君を待っている、何度目かわからない初めての瞬間。
前髪を束ねた雨粒が、鼻先を滑って唇の端に溜まっていく。
舌先でそれに触れれば、通り過ぎた感情が電解質になって溜まっている。
まつげが捕まえた水滴を、弾き飛ばすような光。
ただ光だけが空から降りてきている。
舌先でそれに触れれば、通り過ぎた感情が電解質になって溜まっている。
まつげが捕まえた水滴を、弾き飛ばすような光。
ただ光だけが空から降りてきている。
one by one
2017年11月16日 妄想目の前で繰り広げられる光景を、抱え込んだ肘の角度で感じてるかい。
血管が収縮して、血管壁にかかる圧力がリズムを刻んでるだろう。皮膚の真下で。
末端まで浸透していくソイツのお陰で、空気を鮮明に感じられるだろう。凝縮する温度を。
だけどお前は何もわかっちゃいない。ただそこに立ち尽くしてる。
楽園なんて遠い昔に消え去った。なのに、何もないそこに立ち尽くしてる。
血管が収縮して、血管壁にかかる圧力がリズムを刻んでるだろう。皮膚の真下で。
末端まで浸透していくソイツのお陰で、空気を鮮明に感じられるだろう。凝縮する温度を。
だけどお前は何もわかっちゃいない。ただそこに立ち尽くしてる。
楽園なんて遠い昔に消え去った。なのに、何もないそこに立ち尽くしてる。
腕を伸ばして指先で触れて、爪で線を描くような一瞬の接触。
握りしめた手の中に、つかめたものは何もない。柔らかな手のひらに、食い込む指先の固い感触だけが残っている。
肌をなぞって消えていった、風に押されて膨らんだ毛先。
言葉にすらされなかった、さよならの景色。
握りしめた手の中に、つかめたものは何もない。柔らかな手のひらに、食い込む指先の固い感触だけが残っている。
肌をなぞって消えていった、風に押されて膨らんだ毛先。
言葉にすらされなかった、さよならの景色。